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2021.11.19
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本物に出合える日本遺産の旅①
たたら製鉄ゆかりの地で日本の原風景を望む

2016年に「出雲國たたら風土記~鉄づくり千年が生んだ物語~」が日本遺産に登録され今年で6年を迎えました。この地で育まれた歴史や文化が訪れた者を魅了するわけとは─。
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  • Mika Yachida
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  • 日が沈む聖地、出雲國は現在の島根県東半部を指し、かつて山陰道に属する一国でした。そんな出雲の地では、今でも世界で唯一、日本古来の製鉄法である「たたら製鉄」の炎が燃え続けているのをご存知でしょうか? 場所は、島根県・奥出雲町の「日刀保(にっとうほ)たたら」。鋼のなかでも一級品であり、日本刀づくりに欠かせない玉鋼(たまはがね)を生産しています。アニメ映画『もののけ姫』で描かれるたたら場は、まさにこの地方のたたらをモデルにしているといわれています。

  • 砂鉄と木炭を使った伝統的な製鉄技術「たたら製鉄」が盛んに行われたのは、鉄の道文化圏と称される安来(やすぎ)市、雲南市、奥出雲町の3市町。その伝統技術と関連文化は1400年もの長きにわたり、脈々と受け継がれてきました。そして、「出雲國たたら風土記~鉄づくり千年が産んだ物語~」として、そのストーリーが日本遺産に認定され、今年で6年目を迎えます。

  • そもそも日本遺産とは、地域の歴史的魅力や特色を通じ、我が国の文化・伝統を語るストーリーを「日本遺産(Japan Heritage)」として認定したもので、有形・無形の様々な文化財群を総合的に活用する取り組みです。つまり、公式に価値を見出された、いわば日本の底力であり、日本が誇る貴重な財産といえます。



  • 美しい棚田は、その象徴ともいえる存在です。たたら製鉄は、原料となる砂鉄と森林から得られる木炭の安定供給によって営まれてきました。たたらに必要な砂鉄を採取する鉄穴流(かんななが)しでは、山を切り崩し、その跡地を荒廃させることなく、豊潤な棚田に姿を変えていきます。溜池や水路は農業用水として再利用し、広大な農業基盤として復元。こうして、良質な仁多米(にたまい)や出雲そば、シイタケ、和牛が生産されるようになりました。

  • また、山林資源は無秩序な伐採をせず、たたら製鉄が永続的に操業できるよう約30年周期で輪伐しながら保全しています。たたら製鉄とともに生きた先人たちは、自然と共生し、持続可能な産業を生み出していました。つまり、1000年以上前から、今でいうSDGsの取り組みを理にかなった形で受け継いできた稀有な土地なのです。


  • そして、鉄の生産と流通は様々な文化をもたらしました。鉄の交易で各地の船乗りが唄う民謡などの影響を受けて、有名な「安来節」が生まれ、奥出雲町の「大呂愛宕(おおろあたご)ばやし」は、たたら製鉄の経営者である鉄師が伝えた京都の祇園祭を模してはじまったものが、今に伝えられています。また鉄づくりの神である「金屋子神(かなやごがみ)」が白鷺に乗ってカツラの木に舞い降り、製鉄の技術を授けたとする金屋子神話があります。鉄づくりに携わる人々が信仰を寄せてきた「金屋子神社」の総本社により、その歴史が伝えられ、信仰が広げられています。

  • そして現在、たたら製鉄の伝統を受け継ぎ、最新の技術を取り入れ開発された、高級特殊鋼「ヤスキハガネ」は、刃物など様々な用途で世界中で使われています。港町として栄えた町の根底には、たたら文化が息づいています。そんな雰囲気が感じられる「和鋼博物館」をゲートウェイとしてまち歩きをスタートしてみては。

  • たたらを起源にしたものづくりの精神と、歴史や文化、信仰が大切に守られた鉄の道文化圏、安来市、雲南市、奥出雲町。過去から現在、未来へと継承されるその一端に触れる旅へ。

  • 鉄の道文化圏と称される、安来市、雲南市、奥出雲町の3市町。この地方の鉄の歴史や文化を調査、保存、公開することで、人と自然との深い関わりを発信している。

千年の歴史が薫る鉄の道文化圏


  • 日本で唯一のたたらの総合博物館「和鋼博物館」(安来市)。和鋼とは、たたら製鉄で生産された鋼のこと。その歴史、流通、生産技術を紹介している。日本刀も展示。


  • 鉄づくりに携わる人々が信仰を寄せてきた、全国に約1200社を数える「金屋子神社」の総本社(安来市)。1881年建造・高さ9mの御影石造りの見事な大鳥居は、石造りでは日本一。


  • 「菅谷(すがや)たたら山内(さんない)・山内生活伝承館」(雲南市)には、高殿と呼ばれる形式の鉄の生産施設が国内で唯一残され、国の重要有形民俗文化財に指定される。当時の空気が今も漂う。


  • ヤマタノオロチのモニュメントが出迎えてくれる「奥出雲たたらと刀剣館」(奥出雲町)。現在、唯一操業を続ける「日刀保たたら」と、生産される和鋼「玉鋼」を展示・解説する。



  • 写真提供:刀剣博物館(公益財団法人 日本美術刀剣保存協会)

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