GOURMET

2020.11.27
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―月夜を「カケル」色たち―
「恋する色彩」第五回

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  • Erika Matsubara
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  • ―月の裏側には、都市がある―

    そんな夢物語を本気にするほど子供じゃない。と、一蹴したのが小学生。
    いや、あり得るかもしれない。と、いぶかしがったのは大学生。
    運命の人は月の都市にいるのだ。と、享受したのは割と最近のこと。

  • 地球からは月の裏側を見ることはできません。未知から生まれたロマンは、引力となって人々を惹きつけ、月には多くの逸話が存在します。最古の物語・竹取物語のかぐや姫が月に帰ったという結末も、人々が古くから抱いた月への憧れと神秘性の表れかもしれません。
    そんな謎多き月の裏側には巨大な発展都市があって、そこに私の運命の相手がいるのかも!!なるほど、いくら地球上を探しても出会えないわけだと、都合よく納得。ただいま月まで行く方法を探索中です。

  • 月へ願いと、思いを馳せる。まだ眠りたくない夜に訪れたのは、中華街の華やかさと都会夜景のクールさを併せ持つ街――横浜。歴史的建造物から、最新の話題スポットまで幅広いジャンルのエンターテインメントを体感できる街です。対照的な魅力が共鳴し合い、互いの個性を×(かけて)ゆく。そして生まれる無限の可能性と多様性。

  • 全ては「カケル」ことから、始まる。

  • 恋する色彩
    今日の私が出会ったのは、月夜を「カケル」色たちです。

  • コントラストを味方につけて、人々の感性を刺激する空間「横浜 東急REIホテル」。

  • ホテルのコンセプトは、WARP(ワープ)――
    本来ならば繋がっていないものを繋げる、不思議な力。
    どんな瞬間も飛び越えて「かつて」と「いま」を描(か)けてゆきます。

  • 光の束で月の誕生を表現したエントランスをくぐり、エレベーターに乗り込む。それはまるで遥か彼方に輝く月への旅のようです。FRONT LOBBYへの扉が開くと、眩い光に包まれます。

  • 横浜の風景を映し出したプロジェクションマッピングは、街の気象データとリアルタイムに連動し、まるで街が溶け流れていくように変化していきます。
    プロヴァンスの青をさす「ブルー・ドゥ・プロヴァンス(Bleu de Provence)」の風が横浜の街をさらっていきます。

  • この流動的な演出と対照的なのが、バーカウンターの上に浮かぶ巨大な月のオブジェ。NASAの月面データを基に作成され、360°の月の様々な表情を楽しむことができます。
    もちろん、地球からは見られない裏側も…。

  • ロビーを抜けたどり着いた、ビストロチャイナENCORE。
    ここでは32年間フレンチに人生を懸けたシェフが振る舞う「中華×フレンチ」の新たな出会いを堪能できます。今回いただいたトリアンコースを、中国とフランスの伝統色でご紹介していきます。

  • 遊び心はじける山椒風味のポップコーンから始まるコースは、タパスアソートも本格的。
    「ベージュの女王」という異名を持つファッションデザイナーGabrielle Chanelに由来する色名「ベージュ・シャネル(Beige Chanel)」のミートローフはしっとりほどける食感で、お肉の旨みを「枣红(Zao hong)」の甘酸っぱいフランボワーズソースが引き立てます。「枣红」とは熟したナツメの皮のような色で、濃厚で鮮やかな印象があります。美容にも良いといわれるナツメは楊貴妃も好んで食べたとされる果実で、女性らしい色でもあります。

  • バターのような色をさす「奶黄(Nai huang)」をしたポテトサラダはぽってり優しい味。
    「キュイッス・ドゥ・ナンフ(Cuisse de Nymph)」のような生ハムの塩気とカマンベールチーズのコクがまったり広がるタパスは、オレンジのみずみずしさが爽やかな一品です。「キュイッス・ドゥ・ナンフ」とは妖精の太ももという意味で、女性の淡いピンク色の肌を連想させる何とも艶っぽい色名です。

  • 瞬間、肉汁がジュワァァっとあふれる焼売は「ヴァニーユ(Vanille)」色をしたもちもち食感の自家製皮が魅力。厚みある皮にしっかりと閉じ込められた、凝縮された肉の旨みが後を引きます。小龍包にも似た食感ですが、シェフ曰く小龍包ではありません!とのこと。

  • ヴァニーユは、ラン科バニラ属の蔓性多年草のことで、16世紀にスペイン人によって香料としてヨーロッパへと伝わりました。19世紀半ばにフランス人が独自の栽培法を見出し、嗜好品としても使用されるようになったそうです。
    らっぱ型の可愛らしい花に香りはなく、あの芳醇な香りは果実由来です。アイスクリームの一般的なフレーバーであることから、英語では「平凡な」「つまらない」という形容詞としてvanillaが用いられます。

  • ですが大人になって思うのは、アイスクリーム論争において、人はバニラに始まりバニラに終わるのではないかということ。おそらく人生最初に口にしたアイスクリームは、食べやすいフレーバーのバニラという方が多いはず。小学生になり自分で買えるようになると、夏休みにお小遣いを握りしめコンビニへ駆け込み、迷わずバニラアイスクリームを手に…手に…手に…取ろうとしたら、高学年の子が何やらカラフルなカップアイスを買っていく。そこにははっきりとチョコミントなる文字が。『な、なんだ!あれはっ!?チョコ…ミントぉ?』――こうしてフレーバー選びの時期が始まり、イチゴやらチョコレート、抹茶やクッキーやらと様々なフレーバー(時に変わり種も加えながら)を味わい尽くし、気付けば大人になる。そうしてふと、様々なフレーバーを前にしても、再びバニラへと手を伸ばす自分と出会うのです。原点回帰――食べ続けても飽きのこない味が、結局一番美味しかったりするのですよね。
    理想の男性も一緒。最初は普通の人「で」いいなんて思っていたけれど、社会に出て出会いも増えれば理想も増える。そうして様々なフレーバー(時に変わり種も加えながら)と出会い尽くしたら、やっぱり普通の人「が」一番だと気付くのです。恋愛の場合、バニラは常に品薄状態。気付いた時には品切れで、再入荷なし。エッジの効いたフレーバーが残っていることが多い気がしますが。
    以上の事から、松原語では「貴重な」「尊い」という形容詞としてvanillaが用いられます。

    と、だいぶ逸れましたが色の話に戻りましょう。

  • 「纯白(Chun bai)」のラスパデューラチーズがたっぷりかかったシーザーサラダはレタスのフレッシュさが際立つメニュー。ふわふわと淡雪のような口どけのチーズはコクがしっかりと効いており大人の余韻を楽しめます。

  • 「フー(Feu)」の色味の海老と茄子のチリソースは、魅惑のカレー風味。ぷりっと程よい噛み心地の海老と、茄子のとろっと食感がたまりません。チリ&カレーの辛みが、じんわり舌を刺激します。「フー」とはフランス語で火・たき火などの意味で、1382年には登場している歴史の古い色名の一つです。

  • 牛肉たっぷりのオイスターソース炒めは、大红(Da hong)と明黄(Ming huang)の2色のパプリカを使用した鮮やかな一皿。 肉厚でやわらかな「フォーブ(Fauve)」の牛肉と「ヴェール・レテュ(Vert laitue)」のしんなりレタスが良く合います。レテュ(laitue)とは野菜のレタスの事で、ヴェール・レテュはまさにその明るい黄みの緑色をいいます。「フォーブ」は野獣の毛のような黄褐色をさし、四足獣の体毛の色を表しています。その色合いからあまり良いイメージがなかった色ですが、1905年パリで開催された展覧会に出品された原色多用の強烈な色彩と激しいタッチの作品群をみた評論家が「まるで野獣(Fauve)が吠えているようだ」といって野獣派(Fauvisme)が誕生したことで有名になった色でもあります。

  • 中国では「天地玄黄(=天は黒色、地は黄色。天と地の色。)」のように、黄色は根源的な色とされてきました。再生を意味する大地の中心を象徴し、「明黄」は民間の使用を禁止され、皇帝とその一族だけが使用できる高貴な色だったようです。

  • 明るい赤の「大红」は中国伝統慶祝の時の装飾色で、中国では赤は活力に満ちた色とされています。無数の実をつけて子孫繁栄を象徴するザクロの実の色だと考えられており、結婚式でも多く赤が取り入れられています。新郎新婦の衣装や家族の服、贈り物の包み紙やインクまで赤を用いては喜びと祝福を表すそうです。

  • 食事の最後を飾るのは、ENCOREイチオシメニューである熱々ハマーボー豆腐。メニュー名の「ハマーボー」とは、横浜×麻婆のことで、ひき肉は横浜産ブランドのはまぽーくを使用しています。赤毛色である「ルー(Roux)」の麻婆に「ブラン・ドゥ・ロワ(Blanc de Roi)」の色を思わせるチーズをふんわりかけると、瞬く間にトロリと溶け広がり、口に運んだ瞬間コクとなってひき肉の旨みと絡み合います。痺れ辛さの奥に、素材の甘みをほのかに感じるクセになりそうな麻婆豆腐です。
    「ブラン・ドゥ・ロワ」は国王の白という意味で、フランス・ブルボン王朝の紋章は「青地に金か、白の百合の花」で、白は金と同じ価値を持っていましいた。フランスの三色国旗は、フランス革命のなか国王の色(白)とパリ市の色(青・赤)が結びついて生まれたそうです。

    コースの最後を締めくくるのは、キャラメルシトロン~黒ゴマソース添え~。

    まったりとした甘みの中にほろ苦さを覚える「エクリュ(Écru)」のキャラメルムースと、爽やかな酸味が残る「浅黄(Qian huang)」色のカスタードレモンクリームは相性抜群。
    炭の黒をいう「碳黑(Tan hei)」の黒ゴマソースをなぞると上品な甘さと奥行きのある味わいになります。
    「ジョーヌ・プランタン(Jaune printemps)」のはちみつレモンをかじると、甘さと酸っぱさが可愛らしいアクセントに。

  • 生成り色の「エクリュ」は1910年ごろに流行した色で、フランス語ではすでに1268年には成立していました。
    もともと未加工の状態を表すことに由来するため「ベージュ(Beige)」と同じ色合いですが、厳密にいえば「ベージュ」は未漂白・未染色の毛織物から派生した色名で、「エクリュ」は未加工・未漂・未染色の綿、絹、麻織物に由来する言葉です。

  • 中国の色名である「浅黄」はあさい黄色の花のような明るい色で、シルクの織物や服装によく使用されますが、一方で日本の「浅黄(あさき)」は渋い黄色をさします。
    春の黄を意味する「ジョーヌ・プランタン」は、春になると咲きはじめる黄水仙や菜の花、たんぽぽやマリーゴールドなどを連想させる色です。ゴッホやマティス、シャガールなどの多くの画家が憧れたプロヴァンス地方の黄色い花の絨毯をさす色名です。

    中国では黄色は至高の色として栄光や発展、幸運をもたらすとされていましたが、中世ヨーロッパでは白より劣った色として否定的な意味を持つようになり、非キリスト教徒を表す差別的な色となります。絵画ではキリストを裏切ったユダの着衣の色として描かれ、裏切り者の色という烙印を背負ってしまいます。しかし、時代が流れるにつれ黄色の印象は少しずつ変化していき、活気あふれる刺激的な黄色は、明るさや豊かさの象徴としてナポレオン帝政期には流行色にまでなりました。今ではツール・ド・フランスの優勝者が着用するジャージ「マイヨ・ジョーヌ」の色としても賞賛され、人々の希望を架ける色となっています。

    このように色は様々な国を翔け、時代を駆け変化していきます。
    一つの色が背負った長い長い人生には、両手からあふれるほどに沢山の歴史があります。時代と共に揺れ動く人々の感情を受け止め、寄り添い、元気づけ、時に嫌われ役をも買って出ます。色とは現代を映す鏡であり、歴史を語る生きた化石といえるでしょう。激動の時代を見つめてきた色たちからのメッセージは、私たちの心を揺さぶるほどの情熱を秘めているのです。

    黄色のビタミンカラーで、明日の私に活力をくれたデザートを食べ終えたところで、そろそろ月の旅はおしまいです。後ろ髪を引かれながら、地球という日常へと心を呼び戻していきます。

  • 「中華×フレンチ」が奏でたハーモニーから生まれた、さまざまなカケル――個性をかける、人生を懸ける、時代を駆ける、人々を架ける、国を翔る――色たち。

  • そして、決して欠けないもの。
    たとえこの瞬間の見え方が違っていたとしても、ずっと変わらずそこにあるもの。数えきれないほどの人々が、幾つもの夜に、惹かれ、導かれ、照らされて、思いを馳せてきたであろう月は、再生と復活を繰り返します。月の光を浴びながら、私たちはいつの時代も何度でも立ち上がろうとします。

    だから私たちは、まだまだやれる。
    ここにしかない多様性が産声をあげたとき、新しい可能性が花開く。

    今宵の出会いに、アンコール。

    恋する色彩。きっと私は、明日も恋をするでしょう。
  • ※取材は、2020年10月に行われました。

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  • 参考文献…『色 世界の染料・顔料・画材 民族と色の文化史』(著:アンヌ・ヴァリション、発行:マール社)、『フランスの伝統色』(著:城一夫、発行:パイ インターナショナル)、『日中韓常用色名小事典』(著:財団法人色彩研究所、発行:クレオ)

「恋する色彩」

松原江里佳


  • 松原江里佳(フリーアナウンサー)
    1989年5月5日生まれ。東京都出身。
    札幌テレビ放送でアナウンサーを務め、2015年フリーアナウンサーに。現在は日本テレビ「news every.」リポーター、FMヨコハマ「COLORFUL KAWASAKI」にレギュラー出演の他、日本テレビ「踊る!さんま御殿‼」、「今夜くらべてみました」等のバラエティー番組にも出演。テレビやラジオ、イベントの司会など様々な場で活躍。色彩検定1級、カラーセラピストの資格も持つ。
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