- 夏の都会は息をするのも大変だ。
- 照りつける日差し、やけどしそうなアスファルト、唸(うな)る室外機から噴き出す熱風。身体が溶けてしまいそう。空気の止まった部屋では呼吸が浅くなる。
- 深呼吸の時間が欲しい。
- 自然の風を探しに行こうか。
- 早い朝、太陽が本気を出す前にいつもの遊歩道を歩いてみれば、夜のあいだに少しだけ冷やされた空気は、森のような香りの風を運んできてくれる。
- 夕焼けを眺めに自宅のバルコニーに立てば、一日の熱をゆっくりと冷ます風が、今日もお疲れさまと背中をやさしくなでていく。
- 心地よい風は、案外すぐそばにもある。
- けれど、そんな心地よさを知ってしまうと、もう少しだけ遠くへ、風のいる場所を訪ねてみたくなる。
- たとえば、水面を渡る涼しい風が吹く河原、遠くからやわらかな潮風が届く海辺、風が草を揺らしながら通り過ぎていく高原。
- 風を探す旅には服装も大切だ。
- 軽くてゆったり、シャリ感が心地よいリネンのワンピースをさらりとまとい、やわらかな革のサンダルを素足に履いて、ストローハットを頭にちょこんとのせる。
- すると風のほうからこちらに近づいてくる。まるで旅の話でもするように、ワンピースの裾をさやさやと揺らしてくれるだろう。
- 旅先で口にするものにも、ふと風を感じることがある。暑い国の知恵を借りて、砂糖のたっぷり入った熱々のミントティーをふうふう飲めば、不思議なことに身体のなかに涼しい風が吹く。お酒なら、キンキンに冷えたグラスに白ワインとソーダのカクテル、スプリッツァーをたっぷり注いで、ライムをひと搾り。目にも喉にも爽やかな風がさあーっと吹く。
- そして何より、心地よい風に出逢うために大切なのは、スマートフォンをしまうこと。少し手放して、目の前の景色や光だけをじっくりと味わってみる。そこにはきっと、心地よい風が吹き抜ける。
- 風を探しに、少しだけ遠くへ出かけてみる。
- そんな気分から、夏の旅がはじまる。
絵と文:谷山彩子(たにやま・あやこ)

- イラストレーター。セツ・モードセミナー卒業後、ギャラリー勤務などを経て、フリーのイラストレーターに。雑誌や書籍の挿画、絵本などを手がける。
>シリーズ イラストエッセイ「旅じたくの魔法」

