INTERVIEW

2023.02.17
INTERVIEW

SPECIAL INTERVIEW "KEN NOGUCHI"
アルピニスト野口健「自然との接点が環境問題への関心につながる」
<後編>

世界七大陸最高峰登頂最年少記録を達成したアルピニストであり、また、清掃登山などを通して、環境問題の解決にも取り組む野口健さん。水素と食品廃棄物リサイクル発電でCO2削減を実現した川崎キングスカイフロント東急REIホテルで、環境問題と人生を決めた旅についてうかがいました。
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  • Yukiko Ushimaru
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  • Yoshiaki Tsutsui
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人間の生活と自然とのバランスが環境問題の解決に

  • 富士山の清掃活動を始めたのは2000年から。これも海外の登山家仲間から「ヒマラヤをマウント・フジのようにするのか」と言われたことがきっかけなんですが、最初はまったく意味がわからなかったんです。というのも、僕ら登山家が富士山に行くのは冬なので、雪と氷に覆われているためにゴミを見たことがなかった。でも、初めて夏の富士山に行ったときに登山者の大渋滞と多くのゴミを見て、彼らの言っていることがよくわかりました。以来20年以上富士山のゴミ問題に関わり、山小屋のトイレすべてをバイオトイレ、あるいは瞬間燃焼型にするなど実現してきました。学んだのは人間の生活を犠牲にする環境活動は長続きしないということ。環境問題は単に保護か破壊かということではなく、人間として地球の資源をいただきながら、どうバランスよく今ある自然環境を維持していくのかが大事だと感じています。そういう意味では、このホテルが電力を水素と食品廃棄物のリサイクルによる発電で100%まかなっていると聞いて、快適なホテル機能と環境問題の解決をバランスよく両立しているところはすごいと思いましたね。
  • ヒマラヤで雨が降ったり雪崩が多く発生しているように、これからの環境問題で気になるのはやはり温暖化。でも、それをすべて防ぐのはなかなか難しい。であれば、温暖化で増える豪雨などの災害に対して強い人間を作るべきだと思っています。そのために必要なのが、自然を体験すること。自然のなかでは必ず“プチ・ピンチ”を経験します。例えば急な雨が降ったとき、コットンの服だと濡れると冷えてしまうとか、テントの周囲に溝を作らなかったから水が入ってきたとか、木に高く登りすぎて死の恐怖を感じるとか。災害時はいわば究極のアウトドア。そういうときにとっさにどうするのか、小さなピンチの経験の分だけ、人間の生命力は強くなっていくはずです。
  • また、自然との接点は環境問題への関心の高さにもつながると感じています。知識として学べても、自然を知らずに「地球環境を守りたい」と心の奥底から思うことは難しい。小学生たちと山に登ってゴミを拾い、環境を考える「環境学校」を岡山県の総社市などで開催しているのもその一環。子供だけではなく大人も自然体験を通して地球のピンチに強い自分を手に入れ、さらに環境問題を肌で感じて実際にアクションを起こす。そのサポートを今後もしていきたいと考えています。
  • 今年3年ぶりに行われた富士山周辺の清掃活動「富士山クリーンプロジェクト」。2時間で3トン以上のゴミを撤去した。

旅で見つけるのは人生と未来への分岐点

  • ヒマラヤ行きもそうですが、僕にとって旅は分岐点。実は僕がアルピニストを目指したのも、旅がきっかけです。高校で問題を起こして1ヵ月停学処分になったんですが(笑)、父から旅に出て歩いてこいと言われ向かったのが京都でした。停学なんて最悪な気持ちだったのに、知らない町を歩いているうちに不思議と自分も何かできるんじゃないかと思うように。その旅の途中ふらりと入った書店で出合ったのが、植村直己さんの『青春を山に賭けて』という本でした。最高峰を我先と登るような野心からではなく、今の自分に何ができるかを地道に積み上げていった結果が日本人初のエベレスト登頂につながったと知って、自分もコツコツやっていけばできるかもしれない、と思わせてくれた。それがまさに人生の分岐点となる旅でした。
  • そして、もうひとつの分岐点が山の頂。登頂すると目の前の物理的な景色と同時に、次の目標が不思議とポンと見えるときがあるんです。以前シシャパンマという8000m級の山の山頂に立ったとき、ふと口をついて出たのが「次はマナスルだ!」という言葉。何かを成し遂げたときという言葉。何かを成し遂げたときにそこから次へと向かう、山頂はその分岐点なんだと思います。
  • 結局マナスルは上部のキャンプが雪崩に見舞われて断念したままなので、いつか必ず登頂して自分自身で「句点」を打とうと思っています。でも、また山頂で次の目標が見えてしまうかもしれませんね(笑)。
  • 外交官の父とともに海外生活が長かった野口さん。高校時代に人生を変えた京都旅行で歩いた哲学の道は、日本の美しさを改めて発見した思い出の地。

KEN NOGUCHI

  • 1973年生まれ。ヨーロッパ大陸最高峰モンブラン、アフリカ大陸最高峰キリマンジャロなどを制覇し、1999年に3度目の挑戦でエベレスト登頂に成功。世界七大陸最高峰登頂最年少記録を25歳で樹立する。日本隊に参加し遭難したシェルパの遺族のための「シェルパ基金」や、学校を作るプロジェクト「マナスル基金」を設立し、ネパールの子供たちへの教育支援も行う。


【SPECIAL INTERVIEW】

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