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2023.04.07
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美酒を求めて、醸造所探訪
未来へ紡ぐ日本酒の可能性を追求する、信州佐久「土屋酒造店」

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  • Yuko Yoshiura
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  • Shinsuke Sugino
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  • 近年、大ブームのクラフトビールブルワリーを筆頭に、地域性を生かしたブティックワイナリーや老舗蔵元など、造り手たちのこだわりが詰まった小規模生産による高品質な酒類が注目を集めている。
    美酒が育まれる悠久なる自然や伝統文化に触れることで、おいしさは倍増。
    そんな個性あふれる日本各地の酒造を巡る旅へ出かけてみよう。

  • 芳醇な酒を醸す木造蔵。かつては池で鯉を育て、郷土料理である鯉料理を母屋でふるまったそう。

  • 浅間山、荒船山、八ヶ岳、蓼科山の名峰に囲まれた佐久のテロワールが極上の地酒を生む。


  • 日本酒造りに適した気候風土を持つ長野県は、日本有数の酒どころとして知られ、およそ80もの蔵元が点在。
    とりわけ浅間山や蓼科山など四方を山々に囲まれた千曲川の上流に位置する佐久地域は、比類なき粘土質の土壌と清らかな伏流水の恩恵を受け、暮らしに根付いた酒造りが営まれてきた酒の郷だ。この地で伝承の手技と現代技術を織り交ぜ、日本酒の新たな可能性を広げている「土屋酒造店」を訪れた。

    明治33年創業の「土屋酒造店」は、昭和40年代、県内でいち早く吟醸酒造りに着手した先駆者だ。米を磨き上げ長時間発酵させる手間のかかる製法は、当時は全国でもわずかな蔵元が手がけている程度で、先見の明に驚かされる。
    「もともと当蔵の発祥は別地域で、佐久に移り住んできた後発隊。江戸時代から続く蔵元たちと同じことをしていても太刀打ちできない、自分たちでしかなし得ない道を拓くとの思いで吟醸酒へと踏み切った経緯があります」と6代目当主である土屋聡さん。そんな先代たちのチャレンジ精神、DNAを受け継ぐかのように、より高品質で個性的な酒造りを追求し、さまざまな取り組みを行っている。

  • 「地域の自然に寄り添い、真の地の酒を目指す」と6代目当主、土屋聡さん。

  • 伝統的な古式醸法と近代的な管理法などをバランスよく組み合わせて造り上げる。


  • 特に力を入れているのが、地元佐久のテロワールに根ざした酒米作り。その始まりは、2000年に発足した一般消費者と米作りから完成まで活動をともにし、酒造りを楽しむことを趣旨とした「茜さす会(旧佐久酒の会)」。稲作の優良地帯である特A地区に指定され、ブランド米産地として名だたる佐久市・浅科五郎兵衛新田での無農薬栽培(現在は減農薬栽培)は、未来へ紡ぐ酒造りの取り組みとして話題をさらった。同時にその酒米で醸した<茜さす>は、地酒の新機軸と高評価され、「土屋酒造店」を代表する銘柄に。また同市臼田地区での有機栽培(有機JAS認定米)も遂行中だ。

  • 「茜さす会」による五郎兵衛新田での田植え風景。


  • ほかにも一般的には仕込み水の代わりに清酒を入れる再醸酒と呼ばれる製法を基にして、初めて挑んだ<亀の海 noble-resonance 至高の余韻>も希少。清酒ではなく大吟醸を惜しみなく投入する大胆な手法により生み出された味わいは、軽やかでいて余韻が続く、再醸酒のカテゴリーとは一線を画す、新ジャンルの1本だ。
    また佐久地域13蔵の若手蔵元が一丸となって造り上げる<SAKU13>も興味深い試み。毎年、テーマを決めて仕込む蔵も当番制。蔵の垣根を越えて、世界に通じるブランドを目指す彼らの志が、希望に満ち溢れた個性豊かな酒に表れている。

  • 意欲的な<亀の海 noble-resonance 至高の余韻>(左)と五郎兵衛新田で自家栽培する酒米を使用した<茜さす 純米大吟醸>(右)。


  • 伝統を守りつつ、日本酒の新しい形を発信する「土屋酒造店」。蔵の見学は一般公開されていないが、併設されている直販店でその情熱を体感してみてはいかがだろう。例年5月頃にお目見えする<SAKU13>をはじめ、季節限定品も多く、四季折々趣が異なる佐久の自然風景も楽しみに、足繁く通いたい。

  • 発想豊かにさまざまな工夫を凝らすバイタリティが、日本酒の可能性を広げる。


土屋酒造店

  • 信州産の食材がふんだんに盛り込まれた、宿泊プラン限定メニュー フランス会席の一例。

  • 標高3000メートル級の山々が連なり、ダイナミックで彩り豊かな美景が魅力の白馬東急ホテル。館内のレストランでは、地元信州産の食材を主軸に、季節を愛でる多彩な一品が楽しめる。
    なかでも宿泊プラン限定として供される和のテイストを盛り込んだフランス会席は、唎酒師の資格を有する料飲スタッフ、高知尾恵子さんが厳選した地酒とのペアリングが魅力のひとつで、旅の思い出として心に刻まれるだろう。

  • 「春爛漫の香りをたっぷりと味わって」とお酒の特色や魅力をわかりやすく語ってくれる高知尾さん。<春うらら>は、信州の山菜など春の味覚との相性も抜群。

  • その高知尾さんが惚れ込んだ春限定の1本が、「土屋酒造店」の<亀の海 春うらら 純米吟醸生>。厳寒の冬に終わりを告げ、ワクワクするような春の訪れを感じさせるフルーティーな香りは、ふな口から流れ出るお酒を鮮度そのまま瓶詰めにしたことで、よりフレッシュさが際立つ。ふくよかな香りを存分に堪能してもらうため、酒器にもこだわり、「リーデル」の純米酒専用グラスで提供している。
    造り手の思いを届ける唎酒師の心配り、幸せに浸る格別な春の休日をぜひ。

白馬東急ホテル

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