- 暑さがほんの少しやわらぎはじめると、夏の疲れがじわじわと顔を出す。
- 容赦ない陽射しとエアコンの人工的な風のあいだを行ったり来たりの毎日がいつまで続くのかと嘆きながら駆け抜けた数週間。そろそろ、頑張った身体とこころに“休み”をあげたい。
- 今回の旅のテーマは「休む」。
- 名所もグルメもスキップして、ただのんびりするためだけに出かける場所は海でも山でも森でもいい。自然の風に吹かれながら、こころゆくまで読書をする。それだけでいい。

- テラスが気持ちよさそうなホテルを予約したら、次は本選び。
- 読みかけの文庫? 片付けたい仕事の資料?
- いやいや、それじゃ旅じゃない。
- 日常の続きではなく、“いまの私”が読みたい本を探そうとひさしぶりに本屋へ出かけた。
- 「何が読みたい?」と自分に問いながら書棚のあいだをふらふら。
- 「なんだか今日はピンとこないなぁ」と思いながら心理学、民俗学、自然科学、詩集や俳句。普段は立ち寄らないジャンルの棚を巡っていると少しずつ気配が変わってくる。
- —これは友人が面白いって言ってた本だ。
- —この作家、そういえば読みたいと思ってたんだっけ。
- 目の合う本が、ポツポツと現れはじめる。
- 「きっと今日を逃したらもう出逢わない」、そんな一冊を手に取って、戻して、また手に取って。気がつけば、好きな作家の新刊と、食にまつわるアンソロジー、そして岩波少年文庫。
- 悩みに悩んで、選んだ3冊が今回の旅の友。
- それ以外にもどうしても気になる数冊も一緒に抱えてレジへ向かった。

- 本を選び終えたあとはなぜだか「大仕事を終えた」ようで爽やかな気分になる。
- そして、それらを読む“時間”が近いうちにやってくることが、静かに嬉しい。
- 最近はつい、ネットで本をポチってばかり。
- こうして本屋であれこれ迷う時間は、ちょっとした旅のようだなと思いながら旅の友をカバンに詰め込めば、自然と顔がほころんでくる。
- さて、“休む”旅へ出かけるとしましょうか。
絵と文:谷山彩子(たにやま・あやこ)

- イラストレーター。セツ・モードセミナー卒業後、ギャラリー勤務などを経て、フリーのイラストレーターに。雑誌や書籍の挿画、絵本などを手がける。
>シリーズ イラストエッセイ「旅じたくの魔法」

