- 旅はいつからはじまるのだろう?
- その旅を決めた時から、目的地に到着した時からなど、それぞれのはじまりがあると思うけれど、私の場合は空港で搭乗までの時間を待つひとときに旅がはじまる。
- 空港内の広々としたカフェで飛行機と行き交う人々を眺めながらコーヒーと軽い食事。
- この旅を決めてから続いていた緊張がようやくほどけて、このまま家に帰ってもいいくらいだ。
- 物事を計画的に進める、とか合理的に考えるということが苦手な上に極度の心配性なので旅の準備は楽しいけれど、悩ましい。何度やってもうまくいかない。旅先では行き当たりばったり、成り行きまかせを大いに楽しむことができるのに。

- 旅じたくは小さな決断のくりかえし。
- 日にちを決めて、ルートを決めて宿を決める。どこを見て、何を食べる?
- インターネットは便利だけれど情報が多すぎて、より快適に、よりお得にと欲が出てしまう。目は血走り、頭は混乱、最後には疲れ果て「もうこれでいいや」とおかしな決断をしてしまい、後になって「なんでこれを選んだの?」と首を傾げることさえある。
- カバンの中の荷物だって小さな決断の詰め合わせだ。
- 街歩きの服、ディナーの服、靴は? 持ち歩くバッグは? 羽織るものは? ホテルでくつろぐ時の服は? 動きやすくて着回しもできて小綺麗に見える服はどれ? とクローゼットを引っかきまわす。誰も見ていないのだからなんでもいいのだけれど、やっぱり少しはおしゃれをして旅を楽しみたい。となると、メイク用品は何を持つ……?
- なんとか出発の日を迎え、いよいよ最後の難関。家から空港まで無事に辿り着かなくてはいけないのだ。
- ここでも心配性が顔を出し、ギリギリに空港に着くなんて恐ろしいことはとてもできない。早め早めにと予定が前倒されて搭乗の2時間も前に空港に到着してしまうこともあるけれど、慌てるよりはずっといい。時間になるまでのんびりとくつろいでいればいいのだから。
- あとは飛行機に乗るだけ、今はもう何も決めなくていいんだとホッとした瞬間にようやく込み上げるワクワク感。これが私の旅のはじまり。
絵と文:谷山彩子(たにやま・あやこ)

- イラストレーター。セツ・モードセミナー卒業後、ギャラリー勤務などを経て、フリーのイラストレーターに。雑誌や書籍の挿画、絵本などを手がける。
>シリーズ イラストエッセイ「旅じたくの魔法」

