2025.10.01
GOURMET

Stories over a Whisky Glass
琥珀のグラスに、香りがひらく

鹿児島・薩摩半島の南西、緑深い山あいにある本坊酒造マルス津貫蒸溜所。
焼酎づくり百余年の歴史を持つ本坊酒造の発祥の地であり、
蔵多山の湧水と盆地の寒暖差が豊かな酒を育んできた。
2016年には鹿児島で32年ぶりに復活したウイスキー蒸溜所として新たな歩みを始め、
いまも静かに蒸気をあげている。
2025年、その津貫の一樽から生まれたのが、
東急ホテルズオリジナル「シングルモルト津貫 スペシャルエディション五島」。
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  • Akira Uemura
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  • Jin Akaishi
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THE HOTEL HIGASHIYAMA KYOTO TOKYU, A Pan Pacific Hotelの
バーカウンターで「津貫 五島」についてバーテンダー・小西克也に聞く

  • 選ばれし一樽、ピートの深み

    「シングルモルト津貫 スペシャルエディション五島(以下「津貫 五島」)のボトリングに先立つテイスティングには、東急ホテルズから6人のメンバーが参加。並んでいたのはシェリー、ミズナラ、コニャック、ラムなど多彩な6種の樽だ。
    THE HOTEL HIGASHIYAMAの京フレンチ「ナナノイチ」のバーテンダー・小西克也も参加した。小西に「津貫 五島」について、楽しみ方を聞いてみた。

    「2024年の『駒ヶ岳 五島』は幅広い方に楽しんでいただける方向性でしたが、今回はあえて“通の方向け”に舵を切ることになりました」と、小西は振り返る。

    選ばれたのは、7年熟成・ピート50ppm・カスクストレングス62%のコニャック樽。

    「決め手は、際立つ個性でした」(小西)

    ピートとは、草や苔が何千年もかけて積み重なった泥炭のこと。かつてスコットランドでは、ピートを燃やして麦芽を乾燥させ、そのときに立ちのぼる煙がウイスキーに独特の“スモーキーな香り”を与えていた。
    現代では乾燥の燃料というよりも、むしろ「香りを与えるための素材」としてピートは使われている。強さを示す目安がppm(parts per million)で、数値が大きいほどスモーキーさが際立つ。

    「スモーキーの代表格とされるスコットランド・アイラ島のウイスキーでも25〜35ppm、高くても40ppmくらいです。だからこれは相当高いですね。ラフロイグやラガヴーリンをご存じの方なら、『あれよりもう一歩強い』と感じられると思います」
  • 62度の原酒が見せる“香りの階層”


    その個性をどう楽しむか。小西は「まずは香りから」と言う。

    「強いスモーキーさの奥に、ラズベリーやスモモのような赤い果実の甘みが潜み、コニャック樽由来の華やかさがふっと顔をのぞかせてくれます」

    62度というカスクストレングス(加水せずに樽のままボトルに詰めた原酒)。

    「ストレートではアルコールのアタックが確かに強いですが、そこから数滴ずつ水を加えていくと香りが開き、ピートが後ろに下がり、樽由来の甘さや果実のニュアンスが顔を出してきます」

    原酒に水を少しずつ加えていく。

    「面白いのはその変化の幅です。目安として58度、55度、53度と段階的に加水するたびに、赤い果実の香りが前に出てきます。数滴ごとに表情が変わる……香りの“階層”を探るように、その変化を楽しむ体験こそ、この樽のいちばんの面白さです」
  • “会話を呼び込む”ウイスキー


    強い個性の「津貫 五島」を、小西はウイスキーに馴染みのない人にも勧めたいと言う。

    「ピートは『正露丸みたい』とか『煙たい』と言われることもありますし、62度の強さに驚かれる方もいらっしゃるでしょう。でも、『少し水を加えてみませんか』と勧めると、きっと『あ、香りが変わった』『甘くなった』と気づいてくださることでしょう。その瞬間、ウイスキーが“自分のもの”に変わるんです。バーだからこそ生まれるやり取りですよね」

    まさに“会話を呼び込む”ウイスキーだ。さらに、京フレンチ「ナナノイチ」では、食中酒としての提案も準備しているという。

    「『津貫 五島』を凍らせて炭酸で割るハイボールです。香りをあえて封じ込めることで口当たりが穏やかになり、お食事中にも新しい表情を見せてくれます」

Behind the Counter
バーテンダーの旅路
~小西克也が見つめるもの~

  • カウンターに立つバーテンダーは、ただグラスを満たしているわけではない。
    その一杯を通して、空気の揺らぎ、音楽のリズム、交わされる言葉までも編んでいく。
    バーテンダーという仕事に憧れた少年が、歩み続ける「旅路」の先に見つめているものとは?

  • ホテルマンに憧れた少年、バーテンダーになる


    ここからは、小西克也の魅力に触れていこう。東京で生まれ、京都で育った小西のバーテンダーとしての原点は、幼少期にさかのぼる。

    「小学生のころ、父に連れられて入ったホテルのバーで、白い制服のスタッフがきびきびと動く姿が目に焼きついて忘れられませんでした。もちろん、私はジュースでしたけれど(笑)」

    その記憶がこころに刻まれ、高校生になると「ホテルの仕事をしてみたい」という気持ちに変わって高まった。そして大学時代、ひとりで勇気を出して京都のバーに足を踏み入れる。

    「ポケットにお札を一枚だけ入れて(笑)。緊張しながらカウンターに座ってジントニックを頼んで、バーテンダーの所作をただぼーっと眺めていました。テーブルでは大学教授のような方々がゆったりとお酒を楽しんでいて、『こういう世界があるんだ』と、そのとき、バーに心を奪われたんです」

    胸に刻まれた憧れは、迷うことなく行動へとつながった。あるホテルでアルバイトを始め、中国料理レストランのホールを担当しながら、仕事が終わるとバーに通っては「勉強させてください」と頭を下げた。
    2013 年、新卒で京都東急ホテルに入社し、本格的にホテルマンとしての歩みを始める。レストランとバーの両方を経験し、次第にバーカウンターに立つ時間が増えていき、2022年にはTHE HOTEL HIGASHIYAMAの開業メンバーに。「やはりバーカウンターは特別な空間」と語る小西にとって、そこで過ごす時間はかけがえのないものになっていく。
  • 第1回 東急ホテルズカクテルコンペティション グランプリ受賞カクテル「Pure Forest」
  • コンペティションで磨かれた技と感性


    カクテルコンペティションへの挑戦も、小西を大きく成長させた。

    「24歳のときにHBA(日本ホテルバーメンズ協会)に入会したのですが、その年に全国大会があって、500~600人の前で堂々とシェイカーを振るバーテンダーの姿に衝撃を受けました。そのとき感じた高揚感は圧倒的でした」

    以後、24歳から29歳まで寝る間も惜しんで技術を磨き、年3回ほど大会に出場し続けた。印象深いのは「HBAジュニアカクテルコンペティション キリンカップ&カクテルフェスティバル」だという。ジュニア大会として最大規模で、世界大会にもつながる登竜門だ。2015年の第8回で、小西は「ハードシードル部門優勝」を果たした。
    そして数年後のニューヨーク、小西は一軒のバーで、“バーとは何か”を再認識する体験をする。

    「正直、そのバーはお世辞にも美しいとは言えない空間でした。カウンターは雑然としていて、立っているのはゴム手袋を付けたバーテンダー。でもそこで、お客として飲んだ『ネグローニ』が、とてつもなくおいしかったんです」

    「ネグローニ」とは、ジン・カンパリ・スイートベルモットを合わせた、ビター&スイートなイタリア生まれのクラシックカクテルだ。

    「味わいは、技術だけじゃない、つくり手の雰囲気や、音楽、照明……空間のすべてが関わっている。お客様がグラスを傾ける瞬間には、背景にあるすべてが重なり合っているんだと実感したんですね」

    それ以来、空間づくりへの意識も強くなった。
  • 京フレンチ「ナナノイチ」
  • 居場所としてのバーとバーテンダーの理想像


    「お客様にとって、バーは“居場所”だと思います。誰にとってもそう感じてもらえる空間を目指したい。自分がつくるなら、特に音楽は大切にしたいですね」

    京フレンチ「ナナノイチ」では、わざわざアナログ盤のレコードをかけるほどの入れ込みようだ。休日はレコード探しにも余念がない。
    では、理想のバーテンダーとは?

    「もちろん主役はお客様ですが、バーテンダーは“ちゃんとそこにいる人”でありたいですね。話したいときには話し、静かに過ごしたいときには背中を向ける。ちょうどいい距離感を保ちながら寄り添える存在が理想ではないでしょうか。その夜が旅の静かなハイライトになり、グラスが記憶に残る一杯となるお手伝いができたら、それが一番うれしいです」

    小西の言葉は、ウイスキーの香りようにじんわりと広がり、こころに染みていく。
    津貫の自然が生んだ一樽の原酒と、京都のホテルのバーカウンターで交わされる静かな会話。グラスのなかの琥珀色が揺れて、時間がゆったりと流れていく。

小西 克也 (こにし かつや)

  • THE HOTEL HIGASHIYAMA KYOTO TOKYU, A Pan Pacific Hotel
    京フレンチ「ナナノイチ」バーテンダー

    1990 年 東京生まれ
    2013 年 京都東急ホテル入社
    2022 年よりTHE HOTEL HIGASHIYAMA 勤務

    〈受賞歴〉
    ・「第8回 HBA ジュニアカクテルコンペティション キリンカップ&カクテルフェスティバル 2015 ハードシードル部門 優勝」ほか受賞歴多数。2024年「第1回東急ホテルズカクテルコンペティション」グランプリ受賞。

津貫 五島

  • 東急ホテルズオリジナル
    「シングルモルト津貫 スペシャルエディション五島」
    TSUNUKI Single Malt Japanese Whisky Special Edition GOTOH

    「津貫 五島」は2025年11月1日より全国の東急ホテルズ15 店舗のバーで提供いたします。
    1ショット2,700円〜 (サービス料・消費税込み)

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