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2020.04.17
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―大人可愛いdaytripに華やぐ色たち ―
「恋する色彩」第四回

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  • Erika Matsubara
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  • ―「自分探しの旅にでます、行き先は決めてないけど」

    なんて、走り書きのおき手紙だけ残して旅客機に飛び乗る
    持ち物は、パスポートと片道のチケット
    そこに麦わら帽子とお気に入りのワンピースがあればいい
    カラカラと軽すぎるトランクには、ありったけの夢を詰め込んだ
    たとえ言葉が通じなくたって、にっこり笑えば世界共通
    だからきっと、どこへでも行ける―
  • でも、そんな自由奔放になれるほど
    もう、私は少女じゃないんです!!
  • 都会でビルの海を泳ぎながら暮らす日々は、息つぎするのも一苦労。前に進もうと大きくかき分けても、人の波に押し戻されるたび、自分を見失いそうになります。いつかに描いた期限のないバケーションは、今世ではただの憧れなのでしょうか…。

  • 都心からおよそ20分、ヤシの木揺れる都会の楽園・東京ベイエリア。まるで常夏にいるかのような、リゾート感あふれる街並みに心が躍る。ここには、大人の女性が少女に戻れる場所があります。
  • 恋する色彩
    今日の私が出会ったのは、大人可愛いdaytripに華やぐ色たちです。
  • 海とひとつになれる空間、東京ベイ東急ホテルのレストランCORAL TABLE
    めいっぱい広がった窓からは、穏やかすぎる海と果てしない空が一望できます。

  • 水面の輝きで明るく照らされた店内には、賑やかな色彩の料理とスイーツがずらり。

  • 「ベイサイド ストロベリーフェア」は、都会で泳ぎ疲れた身体と心を究極の可愛さとアイデアで、癒し、楽しませてくれます。

  • イチゴといえばスイーツに使われるイメージがありますが、今回のフェアではお料理とのコラボレーションも味わえます。イチゴの新たな魅力と無限の可能性を感じる、インスピレーションが刺激されること間違いなしのビュッフェです。

  • フェア用の内装も本格派なお料理も可憐なスイーツも、一つ一つが丁寧に「ストロベリー」の世界観を演出していて、乙女心くすぐられっぱなしです!

  • 可愛らしさと甘酸っぱさで親しみやすい、だけどちょっと高級感もある、いいとこどりなフルーツのイチゴ…だからこそ、イチゴの想い出は他のフルーツよりも多い気がします。
    たとえば、イチゴの食べ方。そのままでも十分美味しいですが、ご褒美感覚でコンデンスミルクをかけて食べるのも大好きです。ですが札幌で一人暮らしをしていた頃、コンデンスミルクを使い切れないという悩みが毎年発生していました。イチゴのシーズンを過ぎたらなかなか使うチャンスがなく、最終的にはヨーグルトにかけて食べるのが恒例となっていました。

  • さらに贅沢な食べ方が、いちご牛乳です。少し傷んでしまったイチゴをフォークで潰して牛乳と砂糖をかけるシンプルなアレンジ。小さいころ父から教わったこの食べ方は『お、大人ってすごい。こんな贅沢なことしちゃうんだ…ゴクリ』と幼心に衝撃を受けました。しかも、いざ自分一人で作ろうとすると、牛乳が多すぎてべしゃべしゃになってしまったり、潰すフォークから逃げたイチゴがすっ飛んでいったりと、父の偉大さを痛感するだけなのでした。 ほかにも、大学時代にいったイチゴ狩りや、兄と繰り広げられたケーキのイチゴ争奪戦など、想い出のいたるところにイチゴが登場します。

  • さて、このストロベリーフェアではどんなイチゴメモリーが刻まれるのでしょうか。

    まず目に留まったのが、春の訪れを感じるひときわ華やかなメニュー、イチゴと海老のちらし寿司。錦糸卵の鮮やかな「卵黄色(らんおういろ)」の丘に、咲く花のようにちりばめられたイチゴはまさに「苺色」。酢飯はまるみのある酸味で、イチゴの甘みとよくなじみます。海老のプリッと食感とモッツァレラチーズのもちもち感が楽しい、季節を感じるちらしです。

  • イチゴが日本に渡来した明治初期以降、「苺色」という色名は使われるようになります。 当初オランダから伝来したイチゴは観賞用で、その後に食用として栽培されたのは、フランスなどから導入された品種を改良したものでした。ちなみに日本で最初にイチゴを育成したのは福羽逸人博士で、そのイチゴを「福羽(ふくば)」といいます。新宿御苑で栽培されたイチゴは皇室に献上され、門外不出の貴重なものでした。市場向けの栽培が行われてからも、高値で取引されていたようです。今でこそ多くの人に好まれるフルーツですが、当時の市民がこのストロベリーフェアをみたら、「なんて贅沢!!」と興奮することでしょう。

  • 「撫子色(なでしこいろ)」をした麺が特徴のイチゴとフルーツトマトの冷製カッペリーニは、ほどよい酸味とイチゴの香りがふんわり広がる、のど越し涼やかな一品です。

  • 「源氏物語」の中でも用いられたこの色名は古くからの伝統色で、語感には女性的な優しさや可憐さが込められています。秋の七草でもあり、和歌などでは「撫でて可愛がった子」にかけて用いられることも多く、日本女性の美称・大和撫子からも分かるように日本を代表する花だったようです。

  • 続いては、スパイシーな香りで食欲を刺激する「香色(こういろ)」のイチゴカレー。

  • このメニューを見たとき、正直なところ一瞬思考が止まりました。しかし次の瞬間、カレーに手を伸ばしている自分に気付きます。やはり、少女の好奇心には敵わないのです。
    「丹柄茶(たんがらちゃ)」に染まったココア風味のバターライスと共にいただく、懐かしさを覚えるほどの甘口カレー。豚肉の柔らかい甘みと、ときおり感じるイチゴの酸味が良く合います。スパイスの辛みの後に玉ねぎのとろけるコクが広がり、ココアの苦甘い香りが奥行きを感じさせます。極上に甘口、だけど甘くない、クセになるイチゴカレーは今回のお気に入りメニューのひとつです。
  • 「香色」とは丁字(ちょうじ)などの香りの高い木を煎じて染めたもので、平安貴族に愛された色です。丁字の原産は香料諸島といわれるインドネシアのモルッカ諸島ですが、それが日本にも伝わり正倉院にも残されています。「丹柄茶」は深く渋い赤のことで、丹柄とは雄蛭木(おひるぎ)の樹皮をいいます。布に染めると防腐効果があるとされ、魚網に用いられていたようです。

  • オープンキッチンに並べられた料理は、どれもコース料理でいただくメインディッシュのような存在感が漂います。なかでも逸品は「桑の実色(くわのみいろ)」になるまで煮込まれた鴨肉。しっとりやわらかく、コクと厚みのある旨みが凝縮されています。イチゴとカシスたっぷりのほろ苦いソースが鴨肉の香りを引き立て、濃厚な余韻にひたれる大人の味わいです。

  • ジュワァァァ~っと揚がる心地よい音に誘われ目にしたのは、なんとイチゴの天ぷら!

  • 「麹色(こうじいろ)」の衣から覗くイチゴのフォルムがコロンと可愛らしく、上品な和テイストに仕上がっています。揚げたてを一口でパクッといただくと、はじけるジューシーな甘み。熱でより甘くなったイチゴに、さっくり衣の風味が効いています。ヘタごと揚げたサクサク食感と、果実のみずみずしさが楽しい、スナック感覚の天ぷら。ぱくぱく食べられるので、ついついおかわりしちゃいました。
  • ちょっと一息にぴったりなのが、フェアのスペシャルドリンク。
    「柘榴色(ざくろいろ)」のとちおとめシロップを炭酸水で割った、シュワっと爽快感あふれる一杯です。鮮やかな黄をさす「女郎花(おみなえし)」のレモンを絞れば、より軽やかな味わいでリフレッシュできます。「新橋色」の海を眺めながらいただくと、気分はもうトロピカル。
  • 都会の喧騒から心も身体も開放させて、海の声を探す「私だけの時間」。昔の少女の時には味わえない贅沢もあるのだと、ふと気付くのです。

  • 柘榴の花の色は、「紅一点」の由来にもなっています。
    王安石の詩句「万緑叢中紅一点」(青葉のなかに一輪の赤い花が咲いている)で詠われた赤い花は、柘榴の花とされています。異彩を放ちひときわ目立つ存在をいいますが、転じて、多くの男性の中にただ一人の女性がいる意味でも使われるようになりました。

  • 「新橋色」とは、明治末ごろから大正時代にかけて流行した、東京の新橋が由来の色名です。化学染料が日本に輸入され、それまでなかった鮮やかな色が人気となり、鮮やかな青を好んで着用したのが新橋の芸者衆でした。新しいもの好きな彼女たちがいち早く和服に取り入れたため、さぞ人目をひいたことでしょう。「新橋色」は、華やかさや艶っぽさ、当時の街の賑わいすら感じさせる力があるハイカラな色なのです。
  • イチゴ料理を楽しんだ後は、甘いひと時を。

  • 朱肉の鮮やかな赤をいう「銀朱(ぎんしゅ)」のブラッドオレンジゼリーは、まるで海辺の夕焼けのよう。上層は「山吹色(やまぶきいろ)」のオレンジゼリーで、果実のつぶつぶ食感があるソースが効いたフレッシュなゼリーです。山吹の花のような鮮やかな黄色をさす「山吹色」は、平安時代からの伝統的な色名ですが、日本の伝統色名にはもともと黄色が乏しく、黄色の花からとられた色名は「山吹色」ぐらいしかありません。昔の日本人は黄色の花には比較的冷淡で、紫やピンクの花からとられた色名の方が圧倒的に多いようです。そのため日本語の色名では黄色の代表とされ、黄金の大判・小判などの金貨の異称にもなるほどでした。
  • 春らしいグラデーションが美しいイチゴカスタードムースは、甘酸っぱい口どけ。「石竹色(せきちくいろ)」のイチゴムースの酸味と「嫩黄色(どんこうしょく)」のスポンジにはさまれたカスタードの甘みが口の中でスッと溶け広がります。「石竹色」も撫子の花のような色ですが、石竹は中国原産のナデシコ科の花で、日本の大和撫子に対して唐撫子(からなでしこ)ともいいます。「嫩黄色」とは穏やかで優しく明るい黄色で、「嫩」とは若さや美しさを表し「嫩色(どんしょく)」といえば草木の若々しい色をさします。
  • 最後はイチゴ×チョコレートの最強コンビで、ピザを見事なデザートにメーキャップしたメニュー。

  • 「江戸茶(えどちゃ)」に焼き上げられたピザ生地はもっちり香ばしく、「焦色(こがれいろ)」にとろけたビターチョコレートの香りを一層豊かにしています。みずみずしさを残しながらもトロっと焼かれたイチゴが、濃厚なチョコレートに甘酸っぱいアクセントを加えています。

  • 奢侈禁止令によって庶民が贅沢やお洒落を禁じられた江戸時代、町人は茶色や鼠色の中にわずかな違いやこだわりを取り入れお洒落を楽しんでいました。そのため「四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねず)」といわれるほどの多様な色が生まれ、「江戸」とつけることで流行の先端を強調した「江戸茶」も人気の色でした。
  • 思いを「思ひ」と書いた平安時代、「ひ」から火が連想され、燃えるような熱き思いを
    「緋色(ひいろ)」で表すようになりました。そのため「緋色」には「思いの色」という別名があります。そんな思いの色に通じる感情の焦がれを表したのが、「焦色」です。恋心が燃え上がり続けたら、自身が抱く恋の炎に身を焼き焦がしてしまう。そして燃え上がった後も、くすぶり続ける恋の火種が、永遠にとどまり消えることはない。深く渋い赤をいう「焦色」は、当時の男女の激しくも切ない恋慕事がひしひしと伝わってくる色名でもあるのです。そう思うと、ビターチョコレートのほろ苦さが胸に沁みます…。
  • 皆さんにとっての「思いの色」は何色ですか。穏やかな色味かもしれないし、衝動的な強い色、あるいは一色ではないかもしれません。そして大人になった今、少女の頃に抱いた恋の色とはきっと違うはず。イチゴをたくさん食べたせいか、甘酸っぱい気持ちがよみがえってきましたが……あなたにしか描けない「思いの色」を探してみてはいかがでしょうか。

  • 海を照らした太陽も、仕事を終えて日が傾けば、明日が日常を連れてきます。
    そしてまた始まる、いつもの「大人なわたし」。
    見慣れた朝に、見慣れた景色に、見慣れた笑顔。当たり前が愛しくて、ときどきうっとうしくて。でもそれが、私なりに守りたい大切なものだったりもする。

  • 帰る場所があるから旅は楽しいし、日常があるから非日常を楽しめる。
    大人だから、少女を楽しめる。
  • これだから、大人はやめられない。
  • 恋する色彩。きっと私は、明日も恋をするでしょう。

  • ※この取材は2020年2月に行われました。
  • 参考文献…『色の名前辞典507』(著:福田邦夫、発行:主婦の友社)、『和の色辞典』(著:内田広由紀、発行:視覚デザイン研究所、)、『色彩検定 公式テキスト1級編』(監修:内閣府認定 公益社団法人 色彩検定協会、発行A・F・T企画)

「恋する色彩」

松原江里佳


  • 松原江里佳(フリーアナウンサー)
    1989年5月5日生まれ。東京都出身。
    札幌テレビ放送でアナウンサーを務め、2015年フリーアナウンサーに。現在は日本テレビ「news every.」リポーター、FMヨコハマ「COLORFUL KAWASAKI」にレギュラー出演の他、日本テレビ「踊る!さんま御殿‼」、「今夜くらべてみました」等のバラエティー番組にも出演。テレビやラジオ、イベントの司会など様々な場で活躍。色彩検定1級、カラーセラピストの資格も持つ。
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